横浜家庭裁判所 平成7年(家)3872号 審判 1996年9月11日
申立人 劉桂秀
相手方 孫玄徳
未成年者 孫孔明 外2名
主文
本件各申立を却下する。
理由
1 申立の要旨
申立ての要旨は、申立書の記載によると、「相手方は申立人に対し、未成年者3名の養育費相当額を支払え。」との調停を求め、その実情として、「申立人と相手方とは平成6年9月28日未成年者3名について共同親権とすることを合意して離婚したが、未成年者らの意思によって申立人が未成年者3名を養育して来たので、養育費の支払いを求める。」である。
2 本件手続の経過
(1) 調停手続の経過
申立人は平成6年11月22日本件を申立て、第1回調停期日(平成7年1月25日)に申立人は出頭したが相手方は不出頭であったため、相手方について家庭裁判所調査官(以下調査官という。)が出頭勧告を行い、第2回調停期日(同年3月10日)には相手方が出頭したが、相手方に支払意思が認められなかったので調査命令が出された。その結果、第3回調停期日(同年10月20日)には相手方が不出頭であったため調停不成立となり、審判に移行した。
(2) 審判手続の経過
<1> 平成7年10月23日 調査命令
申立人の生活状況調査の結果、申立人は平成6年10月から生活保護を受け、月額約19万4000円を支給されていたところ、申立人は同年7月ころから就労し、10月には中国に帰国して現在の夫○○と婚姻して再度来日した。申立人夫婦が就労できたので同年12月1日生活保護の措置は廃止された。その後、調査官の双方に対する再三の連絡に双方とも応答がなかった。
<2>平成8年4月1日 調査(双方の所在)命令
○○区役所外国人登録課に対する照会により、双方の住所が肩書住所に変更されたことが判明した。
申立人は連絡を断っていたが、調査官が同年4月15日付照会書を送付したところ、4月23日突然出頭して調査官に概ね次のとおり述べた。つまり、「現在の夫の建設作業員による収入月額約12万円、申立人の清掃作業員のパート収入約6万円によって生活している。生活が苦しいので養育費を一括払いとして200万円貰いたい。」
<3> 申立人は、その後、調査官の連絡について一切の応答をしない。
<4> 申立人は、平成8年9月5日午前10時の審判期日にも一切の連絡もなく出頭しなかった。
3 上記本件経過によると、申立人は本件を維持する意思があるのか否か、極めて疑問であり、さらに審判事件の審理に極めて非協力であると認められる。
そもそも、家事審判事件のうち乙類事件は当事者の申立てによって初めて手続が開始されるが、これは乙類審判事件の当事者は手続の主体である側面を有することを表しており、当事者は以後の手続において手続協力義務を負うものと解することができる。本件養育費請求事件は乙類審判事件であり、申立人は手続協力義務を負うものである。申立人の本件手続における協力義務の遂行について検討すると、上記認定のとおり、<1>申立人は住所を変更しながら当裁判所に通知をしない。<2>平成8年4月23日突然の出頭以来、調査官の照会を無視した。<3>同年9月5日午前10時の審判期日にも無断不出頭であったことなどが認められ、これらを総合すると、申立人は手続協力義務を怠ったものということができる。さらに、調査結果によると本件申立てを維持する意思の極めて乏しいものと認めることができる。
以上の次第であるから、本件申立は申立人において本件を維持遂行する意思が認められず、手続に協力しないので不適法な申立として却下するのが相当である。
よって、主文のとおり審判する。
(家事裁判官 若林昌子)